a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

【詩】性の営み


虫が鳴いている
今この瞬間しかない場所で虫が
誰かを探してただひたすらに鳴いている

 
私が私の肉体を纏うよりもずっと前から
私が別の私だった頃から
連綿と繰り返されてきた光の営み

 

性の営み

 

虫の音の響くまさにこの瞬間
あなたと私は一緒に居る
伝統の柵の内側にあなたは居て
それでも私は憚らず柵の向こう側のあの人を目を伏せながら見ている

 

柵を抜け出さずに居る私はあの人を見ている気持ちだけを秘かに
私の腹の中へ
腹の中へ込めてあなたと虫のように重なり
勢いよく腹を震わせて泣いた

 

そのように幾晩も過ぎ去り私の腹は膨れ
涙と共に凹み
新しい光が生じ
あの子が生じた

 

これで私は
柵の向こう側のことは忘れられると
柵の向こう側は無くなると私は思っていた

 

その時節の虫たちは絶え
土から新しい虫たちが顔を出し
そして次の世代もまた鳴き始め
誰かを探し始める頃

 

成長したあの子とその妻は一緒に居て
伝統に従って粛々と柵を作り
その内側に二人は行儀良く座しては居るけれど
それでもあの子は私に似て憚らず柵の向こう側の誰かを盗み見ている

 

実在し得ない誰かを見ているやりきれない気持ちだけをあの子は
腹の中へ
腹の中へ込めて虫のように妻と重なり
勢いよく腹の外へと押し出して泣いた

 

そのように幾晩も過ぎ去りあの子の妻の腹が膨れ
絶叫と共に凹み
新しい光が生じても

 

それでも誰かを
憧れをあの子は忘れられなかった
子が出来てもあの子は夢想し続けたがために夢想は実体を纏った
あの子はとうとう柵を越え
肉体の在る夢に手を伸ばし

 

本当に接吻した

 

あの子は本当の接吻をした
祖霊の誰もが夢想してきた接吻を
本当の接吻を遂にあの子はした

 

どうかあの子を責めないでちょうだい
これは私が自ら腹に押し込めてやり過ごした
私のあの人への気持ちのせいなの
連綿と受け継がれた憧れのせいなの

 

性とは

 

飽くなき憧れのことなの
憧れを持たない生き物がいないように
あの子も作られただけなのよ
どうかあの子を責めないでちょうだい
憧れを持たない生き物などこの世にいないのだから

 

虫の音の響くまさにこの瞬間
私はあの子を見ている
あの子が夢想のただ中に身を投じたことを
虫の音が何を慮ってか色とりどりにかき消している

 

夢想はどこまでも続き
血が絶えることはない

 

これはずっと昔から繰り返されてきた性の営み

 

あの人への想いは叶わない
憧れは絶えない
あの子はそれを受け継いだ
これを受け継がない子供は居ないのよ

 

虫が鳴いている
今この瞬間しかない場所で虫が
誰かを探して永遠に鳴いている

 

誰かを探して私はまだ泣いている
既に幾度も別の肉体を纏ってきた私は未だに
誰かを探して呼応を求め
一人鳴いている