a.o個人ブログ

詩や創作文章、祈りについての考察を個人的に公開しています。

《創作》占い


四柱推命という占いがある、とある女は、占いと呼ばれるものをあまり好ましく思っていなかったが、この占いはどこか、信用していた。
占いを信用する、というのは博打を信用するのとほとんど同義である。
つまりその女は博打を信用していた、しかし信頼はしていなかった。

 

雷が来ると頭が割れそうに痛くて、下腹部も痛くなるんです、落雷の度に私は身体を押さえて呻くしかないのです、楽しみにしていた怪談のイベントすら行けなかったのです、先生、どうすればよいでしょうか。
女が医師にそう問うと返ってくる答えは決まってこうだった。
「その不調は霊のせいではありませんよ、まずお酒を止めることです、お酒は身体の血流を悪くします、だから低気圧に負けてしまうのですよ」
女にはどうやら酒好きの相が出ているらしかった、医師は医学を信用していたし信頼していた、対面鑑定というものに重きを置いて自らの医学を駆使していた。
よって女は毎回こう言わねばならないのだった。
先生、私はお酒は飲めないんですよ、ええ、一滴も…いえ、一滴くらいなら飲めますが飲んでいるうちに二日酔いのようになるのでお酒は飲まないんですよ。
しかし医師は自分の医学を信頼しているらしく、日を改めて女が身体の不調を訴えると必ず言うのだった、そして女は首を振るよりほかないのだった。
「お酒を止めることですよ、あなた、酒豪でしょ、わかりますよ僕には」

 

この事からもわかるように医学ですら、医術ですら、占術同様どんなに信用しようが信頼しようが…それで食い扶持をわんさか稼いでいようが、実に的外れなものであったりもする。
下戸だという事実は、女の酒好きの人相により打ち消されていた、つまり医師自身の信用する統計学により患者の真実が覆い隠されていたのだった。
にも関わらず女はどこか独特の視点から四柱推命という占いを信用していた。
この種の統計学は完全な情報、数値上のデータ遊びでしかない、対面鑑定ですらないのだからそれがどれだけ的外れであるかは察していた。
それでも遊びをしたいという理由で女はあれこれと誕生日をパソコン画面に入力しては楽しんでいた。

 

女と抜き差しならぬ仲になっている褌男の誕生日を打ち込み、頭の中で予想していたキーワードが出るとその独特な楽しさは、不安に変化した。
「この1~2年は出会いが沢山あり非常に悦びに溢れた運勢、しかし異性関係が明るみに出るなどして家庭などに危機が訪れる可能性があるので要注意」
女は思った、私って要するに褌男の妾なのかしら。
そして褌男の来年の運勢も見た、褌男は占いという当てずっぽうな統計学によると、来年もどんどん異性に出会って、どうやら褌男にとって大切な妾を失うらしかった。
ありそうな話だった、下戸な女が酒好きになるくらい、実にありそうな話だった。

 

女は自分の基本情報をその占いで見てみた、孤独が好きでプライドが高くその割にトロいと出ており、酒好きとは出ていなかったが色欲に溺れると出ていた。
女は息を飲んだ、さらに褌男と女自身の相性を占ってみた、こうなるともう博打の快楽に酷似した物質が女の脳みそを埋め尽くしていた。
「抜群の相性、特別な暗示の出る関係、強い繋がり、稀に強すぎる繋がりに周囲が振り回されることも」
女は息を飲みすぎていた、快楽とも苦痛ともつかない波に女の脳みそは浸かり、汗をかいていた、落雷により家が停電し、午後3時だというのに真っ暗になった、女は暗闇の中で酸欠と、低気圧による強烈な頭痛に呻きつつひとり悦んだ。
私たちってやっぱり相性がいいのね!

 

しかしこの種の相性の良さというものを女は実は既に体感していた、女は女の友人とも、ほとんど全く同じ相性だったからだ。
勿論厳密には異なる相性である、対面したらどれほど全てが異なっているか誰にでもわかるだろう、ただ数値上のデータとしては非常に似た相性であった。
…離れていても繋がっていると実感出来る相性…
表面上どちらかが不機嫌で、たとえそれで疎遠になりかけていたとしても、それでも尚繋がりを実感出来る相性、そのような人間関係に名前をつけるなら…相性がよい関係だという事を、女は既に知っていた。
あえて互いに機嫌を取ったり、あえて大切に大切にせずとも、あえて一緒に住んだり、あえて結婚などせずとも、あえて、異性はこの人だけと決める事すらせずとも、十分に繋がっていられる相性、それが、数値で見る占いでの抜群の相性というものだった。

 

女は褌男を思うとき、褌男の内部に女自身の要素を見て取った、友人にも女自身とよく似た要素があるのだった。
完全に異なる人ほど遠い人で、それを統計学上では縁遠いと言うのかも知れないが、自分と違うということこそが焦がれる要因であると女はわかっていた。
占いで言う相性の悪さとは遠さの事だと女はわかっていた。
褌男や友人を焦がれる事は無かった、彼等は既に女自身ですらあったからだ。
対面すると友人にはあまりにも親族的なものを感じるため、異性という感覚は失せていた。
対面すると褌男はあまりにも親族的なものを感じるため、母子という関係に似ていると女は思った、それでも不思議と褌男は女にとって男だった、女の子宮から生まれてきたような気もしたが、同時に女の胎内に帰りたがっているようにも感じ、褌男に身体を開いてはおかえりと心の中で呟いたのだった、それを褌男も理解していると女には実感できた。
これほど深い仲を誰にも説明出来なかった、妾と言うよりも、女は母だった。

 

褌男と結婚したいとは思わない、だって母子だから。
褌男を憧れの人とは思わない、だって子供だから。
褌男が母親の身体をまさぐるのを正常だとは思わない、この異常さこそが縁の深さだった。

 

褌男とその妻は、自分を妾だと思っているのだろうか、母だと思っているのだろうかと女は考えた。
対面したら確かに自分は、酒豪の妾という人相をしているだろうと女は思った、それは真実ではないと言い張っても誰も信用しないだろう、誰も女を信頼しないだろう。

 

落雷は過ぎ去り、女は頭を押さえ込まずとも起き上がる事が出来た、霊の話を聴きたかったな…と女は思った。
霊というものもあやふやで、何の統計学も根拠もなかった、だからこそ真実があるような気がしていた、作り話や嘘だとわかっていても真実が垣間見えるような気がしていた。
停電はすぐに復旧し、明るさが部屋中を満たしたが、よりにもよって電動式の手洗いが作動しなくなった、これはどのような怪談よりも怖い話であった。
M氏は何をやっても作動しない手洗いに少し苛立っていた、女はM氏に言った。
「電気製品は人の手で作られているから、どれも人の子みたいなもんだよ、だから具合の悪いときには叱るんじゃなくて優しく励ましてやって!大丈夫だよって声かけながら直すと作動するようになるから」
女と同居しているこのM氏は、このような女の勘を疑心暗鬼ながらも、どこか信頼していた、信用はしていなかったが感情や感覚の面で独特に信頼していたので、女に言われたとおりにした。
すぐに手洗いは作動した、女にとっては不思議な事ではなかった、当たり前の事だった。

 

この種の真実を全く誰にも説明出来ないし、統計を取ることも叶わないだろう…女はただ一人、自らにとっての真実を抱きしめるよりほか、為す術はなかった。