a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

【詩】もしも目の前の人間があなただったら

 

私は震えております
恥ずかしいことにあなたに出会うまで、私は人間が人間に対して抱く尊敬や愛情の念を知らずに居たのです
私があなたに抱くような気持ちを誰もが誰かに抱いていたとしたら…世の中は光輝く人で溢れていることでしょう

 

…と、自分に必死で言い聞かせている私は今、怒りで震える手を押さえています
先ほど非常に腹の立つことがありました
その原因である目の前の傍若無人な不細工を今この場で、殴りたい衝動に駆られております
でも私は、大丈夫です、そのような事はいたしません
だってその人でさえ誰かにとっては絶大な慈悲の対象なのです
私は最近このようにして怒りをやり過ごしています
ええ、ええ、そうですとも…私は怒りをやり過ごせていません
でも私はもう人間が人間に対して抱く尊敬や愛情の念を知ってしまったのです
私はあなたを好きになってしまったのですから
…だから怒りに駆られるたびにこう考えることにしているのです

 

もし目の前の人間があなただったら…私は許すでしょう
もし目の前の人間があなただったら…私はどのような不始末でも許すでしょう、だってあなたなのですから
もし目の前の人間があなただったら…私はどのような暴言も許すでしょう、だってあなたなのですから、あなたに対し暴言で対抗し、あなたを汚すようなことを私はしません、絶対にいたしません

 

勿論目の前の人間はあなたではありません
…と同時に、全くその事実と同じくらい、目の前の人間もあなたと同じ存在なのです
目の前の人間があなたではないとは完全には言い切れないと、私は思うのです

 

このような自分自身に於ける真実を知ったからには、怒りは自制せねばなりません
なぜならそれこそが、他ならぬ自分自身に対する誠意の見せ所だからです
今までの人生で欠けていた自分自身への誠意を、これからの人生で補おうとしております
ですので私はさっきからずっと、震える手を押さえているのです

 

あなたは私の誠意なのです
私だけが知り得る秘かな誠意なのです
私の内側に芽生えた誠意、それが私の想うあなたなのです
私は私の誠意を、今でも好きなあなたを、無視したり殴ったりするわけにはいきませんから

 

…とはいえ目の前の不細工はやはり、3発くらい殴った方がよろしいかと存じます
ええ、ええ、そうですとも…相手を貶める言葉そのものについての是非を、心の内側にすっかり居座ってしまったあなたに指摘され、さらに動揺しております
美しいあなたに対してその反対の言葉を投げかける事など到底出来ないように、それは目の前の人間にしたって同様なはずです
私の目からは目の前の人間が酷く醜く見えますが、それはあなたが私の目に美しく映るのと全く同じ原理からなのです

 

そもそも怒りに震えるなどということ自体が馬鹿げているのです
ここまで馬鹿げたことに全身が反応しているという事自体に強い抵抗を感じております
これはもう一種の辱めといっても過言ではありません
つまり殴りたいのは自分なのです
父親に殴られていた頃と同じ要領で私は生きているのです
私は矮小な人間です、父親と同じくらい、私は短気で発作的で病的なのです
私は病気なのです
病気が私なのです

 

ああ、駄目です、私の内側には光輝くあなただけではなく
愚痴っぽい、自分を呪うことに長けている存在も住んでいるのです
私の心自体が、魑魅魍魎の住まう巨大な団地のようなものなのです
あなたをこのようなみすぼらしい場所へ置いておくのは気が引けます
どうぞ出て行ってください
私なんか捨て置いて、私の心の中から出て行ってください

 

心の中からあなたが居なくなれば私は、躊躇なく目の前の不細工を殴り倒せます
この人間の屁理屈を言葉でボキッと折ってしまうことだって出来ます
私は自分が正しいと思い切り叫べるのです
自分は駄目な人間だから、駄目なことをしていいのだと叫べるのです
お前なんか私よりももっと駄目な人間なのだから殴っていいのだと叫べるのです

 

だからどうぞ出て行ってください
お願いですから私の心の中から消えてください
私の心に自由を与えてください

 

…それでもあなたは消えてはくれません
もう考えないようにと思ってもあなたは光を発しながら私の内面にいつもいらっしゃるのです
別にあなたを神様だなんて思ってなどいません

 

そして現実のあなたが
私や目の前の人間同様に矮小であり
時に怒りに駆られるということだって
私にはわかっているのです
それでも尚私の心の中であなたは
私自身の誠意の化身として存在しているのです
私にとってのあなたはどういうわけか、私の誠意そのものなのです
これが私の、あなたに対する好意なのです

 

実際の私は立ち尽くしていました
一方私の心像世界では、魑魅魍魎の住まう団地から火の手が上がっています
それを私はセスナ機をあてずっぽうに操縦しながらぼんやりと眺めています
自分自身の心が自分の手によって一部傷つきはじめているのをただ眺めています
その時です

 

「…ごめんなさい…」

 

私は耳を疑いました
そもそもの原因であるこの傍若無人な不細工が
…まさか謝ってくるとは…
そしてその一瞬後にそう考えている自分が恥ずかしくなりました
目の前の人間がとても神々しく見えてきました
一方私は強烈な疾しさで息も出来なくなりました

 

もし目の前の人間があなただったら…私はあなたを殴っていたかもしれない
もし目の前の人間があなただったら…私はあなたの失敗を責め立てたのかもしれない
もし目の前の人間があなただったら…私はあなたに対し暴言で対抗し、あなたを汚してしまったかもしれない

 

目の前の人間もあなたと同じ存在なのです
あなたを糾弾するようなことは、私の内外どちらの世界に於いても、あってはならないのです
私も目の前の人間に謝りました
…こちらこそごめんなさい…
すると疾しさは消え、私は自分の身体から力が抜け、楽になるのを感じました
あなたのお陰なのです
私の心の中の誠意のお陰なのです
だって私は
あなたに謝ることが出来たのですから

 

やっぱりあなたは素晴らしい
私の心の中にいつまでも住んでください、宮殿を作って差し上げます
私は心の内側で消火作業にあたります
セスナ機から無限に伸びる銀色のホースを出し、それを神様の住まう海と繋いで思い切り放水します
その時にあなたの輝く光が水に反射し、何重もの虹がかかります
魑魅魍魎の住まう虹色団地のその先に、虹の尾が触れています
見たこともない美しい野山に虹の尾が触れています
この瞬間に私の内側は広がるのです
確かに人を許した(あるいは許された…どちでも同じ事です)瞬間に、心の地図は広がるのです

 

私はあなたに出会いました、だから人間が人間に対して抱く尊敬や愛情の念をもう知っているのです
だから私はあなたを、いつまでも好きなのです

 

…もしも目の前の人間があなただったら…