a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

《創作》万華鏡

 

僕は万華鏡を持っているんだ、僕だけの万華鏡があるんだ、僕にしか見えない宇宙の模様を僕は知っている。
出来事や、まだ出来事になる以前の様々な要素が混ざり合って存在し、ぶつかったときに顕在化する。
こちらから見て心地よい事とその逆…万華鏡に散らばる、名前がついているのが不思議なくらい繊細な数多の色。
それら全てが祝うべき万事であるということを僕は、誰にも言わないけれど確信している。
宇宙の模様とは、万事を祝う舞いであると僕は知っている。

 

強いて言えば僕は、この万華鏡を照らす焚き火が欲しいと思っていた。
僕自身にはそこまでの炎は無いんだ、舞うことも出来るけれど僕自身は、毎日燃えているような人間ではないからね。
だから少しばかり肌寒い思いもしたし、手元が暗いせいでせっかくの万華鏡を動かしても何も見えない日もあった。

 

女たちを手当たり次第口説いていたのもそのせいだよ、どうにも手元が暗くて僕は、僕の万華鏡を見ることが叶わなくなっていた。
駅前でね、綺麗な女性がいたら躊躇わずさっと声をかけるんだ、うん、意外にうまくいくよ。
だって女という生き物は、自分が美しいと絶えず自覚していたい性質があるから、それを後押しするのは何ら悪いことではないんだ。
女の領域に踏み込まなければいいだけだったよ、僕は貴女の美を前に居ても立っても居られなくなりました、それだけでいい。

 

女たちと寝るとそれぞれの喜びや、哀しみが肌を通じて僕に染み入ってくるときがあった。
ほとんど染みない人も居たけれど、それは僕らの感覚器官がズレていて波長が合わなかっただけだよ。
子持ちかそうでないかなんてどちらでもいいんだ、彼女らは僕の穴、暗い暗い洞窟、ひとつの灯りもない原始の洞穴。
そういうわけで僕は新しい女と寝る度にどんどん灯りを欲した。
何しろこの洞は、暗くて、奥へ入れば入るほど、さらなる暗がりが手招きする場所だったから。

 

焚き火を探し求めていたけれど、焚き火を起こしていたのは男たちだった。
僕を満足させ、万華鏡を自由に見せてくれるための火を自発的に呼び覚ますことの出来る人間に今まで3人出会ったけど全て男だった。
セックスのことも全てさらけ出せる相手と、焚き火を囲めたらどんなにいいだろうと僕は夢想した。
男たちと寝るわけにもいかないし、第一彼等は僕の万華鏡には気付いてもいなかったから…僕は独自の片思いをするかのように、焚き火を起こせる男たちに接した。
彼等を僕は支えて行きたいと思っていたし、今もその信念は変わらない。
男たちに僕の万華鏡が見えなくても、僕の信念は変わらない。

 

さて、そうこうするうちに僕は人生の半分ほどを生きたらしい、肉体的にそれを感じた時、駅前に行っても女を新しく欲する気持ちが失せはじめていることを僕は悟った。
40代というのはそういう年齢だった、既存の女たちには説明し難いが、僕自身の燃料を考えると無駄遣いは命取りだということなんだ。
さらなる洞に入り込むほどの価値、価値、価値、と僕は繰り返した。
真っ暗な洞窟、灯り、灯り、灯り、と僕は繰り返した。
一方で、僕の接触により幸福を感じる女たちの事を考えた、彼女らと過ごす時間、彼女らの幸福、彼女らの思う価値について僕は考えを巡らせた。
かといって女たちの持つ原始的な暗がりに置いてけぼりにされるにはもう、体力が足りなかった、女たちは常に冷淡で、僕は僕なりに若く、そして僕なりに老いた事を僕は認めた。

 

その時、松明の灯りが見えた。
本当に一瞬、凄まじい炎が揺らめくのが僕に見えた。
手元の万華鏡が喜びの声を発し、カラカラと踊り出したのを僕は感じた。
見間違いだったら僕はもう、火を起こせる人間との出会いなんて一切期待しないぞと心の何処かで捻くれる気持ちすら湧いた。
でも叫びたかった、気付いたら僕は焚き火へと吸い寄せられていた、僕は思わず口に出して言った。

 

「ママ!」

 

そうとしか言いようがなかった、彼女の事はそれ以外呼び方が無いような気がした。
女のそばには赤々とした火が燃えていた、女は焚き火にあたっているのか暑がっているのか、時折顔をしかめたり思い返したように笑ったり、踊ったり、焚き火で唐揚げを揚げたりしていた。
今まで何処に出かけてたのよ、どうせ色んな女の子たちの所でしょう、色んな洞窟でしょう、でも灯りが足りなくて今日はママの所へ戻ってきたのね…彼女はそう言って焚き火から一本の枝に炎を分け、その松明を僕に握らせた。
これを持って遊んできなさい、誰かを幸福にするのなら幸福は広がるわ、万事が祝うべき事柄の連続なのよ…女はそう言ったけれど僕は静かに松明を返した。
「ママ、僕はもうそこまでしようとは思わなくなっちゃった…体力も時間もそこまで無いんだ…双方にとって価値のあることだけを僕は見ていたいんだよ、互いに万華鏡を見たいんだ」
僕はそう言って手元の万華鏡をクルクル回した、万華鏡は一回りも二回りも大きくなってゆくようだった。

 

「万華鏡に飲まれちゃうよ」

 

そう言いながらも僕は目を離さなかった、女が僕の万華鏡をのぞき込んだので二人で宇宙を見た、万華鏡はそこまで大きくなっていたのだ。
宇宙の模様が見えるわ、私これを壁に描いて気が違っていると怒られたのよ、両親にね…女は僕の万華鏡に見とれていた、僕は言いようのない喜びを感じた。
「本当はこれを皆に見せたいんだ、女たちにも、男たちにも」
いい子ね…女はそう言って僕の頭を撫でた、僕はたまらなくなって女に抱きついた。

 

「僕はよく夢想するんだ、ママが他の男と寝ているところをね、それでママにも、その男にも聞くんだ、どんな快楽を今感じているのかって、ママの穴の入れ心地はどうって男にも聞きたいんだ、男がママのもたらす快楽に酔いしれて口走るその答えを聞きながら、僕は達したいんだ、男がママのもたらす快楽で興奮しているのを見て、僕はきっとさらに興奮するんだ、変かな…?」

 

女は笑った、焚き火の明かりで女の肌は一層滑らかに映った。
僕は女の言うようにやはりバイセクシャルなのだろうか?
僕は女の言うようにやはり、男を許容する下地が出来ているから、嫉妬に飲み込まれずに済むのだろうか?
浮気を悪だとは思わない、遊びは美しい舞いだよ、体力のあるうちに舞うんだ。
誰かの嫌がることをするなというのは…誰かは、僕の存在自体が嫌なんだよ、誰かは、ママの焚き火すら煙たくて嫌なんだよ。
嫌がることの本質は嫉妬なんだ、嫉妬をしなければ誰もが幸福になれるんだ、だって誰もが…一人きりだから、二人ひと組なんてのは嘘だから。

 

嫉妬を乗り越えるには男を愛で、女を愛するのが一番だと僕は思っているが…勿論、生理的に無理だと心の扉を閉められてしまうので僕はこのことに関して口にしたことは無い。
もちろん、僕の配偶者に言ったこともない、僕の息子に言うことも多分無い。
一番大事なのは一緒に万華鏡を見ることだ、本当はそれが何人だって何十人だってかまわないんだ。

 

僕が僕のママに出会ったことで、僕がそれ以外の人を貶めるような事は起こりえないんだよ。
僕が僕のママに出会ったことで、女たちへの態度が変わることもない、男たちを尊重する気持ちが色あせる事も無いんだ。
だって僕は僕だから、たった一人の僕だから、誰より偉いかどうかなんてことが実際には無いのと同じだよ。
僕は万華鏡のなかの、目に見えないたった一つの粒でしかないんだ、踊りの一部でしかないんだ。

 

女は立ち上がって踊り出した、炎が飛び、焚き火が燃え上がった。
これをやらないと私自身が焼けて苦しい思いをすることになる、山火事どころじゃ済まないよ、だからこうして焚き火を保ってるってわけ…女はそう言いながら火の玉を焚き火の中に落とし込んだ。
こういう事に時間を費やすなって散々怒られてきたけれど、結果的に私のみならず周囲まで火傷するだけだったわね…女は笑った。
誰かの悪事っていうのは、誰かの快楽でもあるのよ、でも本当の本心からの快楽は悪かしら?
一緒に万華鏡を見ようというのは悪かしら?
その為の炎は有害かしら?

 

…もしそれが悪なら、私は、死ななくちゃならないわ、あなたの息子を愛おしむ気持ちごと抱え込んで、ママは死ななくちゃならないわ。
炎に焼き尽くされなくちゃならないわ。
その炎すら生理的に受け付けないというのは、最早傲慢だわ。
でも、誰かにとっての悪事も、本当は素晴らしい出来事なのよ。

 

「だって」

 

と僕は言葉を継いだ、宇宙は万華鏡だからね。
僕は万華鏡を持っているんだよ、僕だけの万華鏡があるんだ、僕にしか見えないと思っていた宇宙の模様を、ママも知っているから。
それら全てが祝うべき万事であるということを僕らは確信している。
宇宙の模様とは、万事を祝う舞いであると僕らは知っている。
やっと見つけた焚き火のそばで僕らは、踊りながら万華鏡を見ている。