a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

《創作》浮気の是非


「神無月くんの誕生日、10月26日、それって私が人生初めての創作文章を書きはじめた日なの!これって運命だと思わない?」
女は興奮して叫んでいた、裸でソファーの上に寝転び髪が汗で額に貼り付いていた。
「神無月くんの声もこの前電話越しに聞いちゃった、可愛い声…」
神無月くんは僕の息子だ、今年5歳。
「ねえ、私、あなたと肌を合わせると神無月くんがより一層可愛く思えてくるの…私ね、これまで子供を可愛いと思った事なんて一度も無いのよ、酷いかもしれないけれど、甥も姪も…いえ、そうじゃないの、嫌いなわけではないの、甥と姪も人として普通よ、普通の人でしかないの、でもね、神無月くんだけは特別、それを考えるとね、浮気の是非は…悪いことだらけとはいえないんじゃないかって思うの」

 

女は慎重に身体を起こした、その慎重な動作だけが、かろうじて彼女が骨の痛みを恐れているとはたから見てわかる唯一の点だった。
開け放ったカーテンから外の緑が濃く浮き出て見えた、ここは家の中だから夏の昼間は開けてて平気だと女は言ったが、僕はどこか不安を感じながら性行為をしたのだった。
…本当に見えていないのだろうか?女が鈍感なだけではないだろうか?

 

「あいつ、お母さん出て行っちゃったからさ」

 

しまった、女の話を射精後の頭でぼんやりと聞いていた僕は聞き返す…ごめんあいつって誰?
「も~、友人よ、私の古い友人、あいつには何でも話しときたくて、私があなたとこういう関係だってことも話したの、そしたらね、既婚者の浮気はもとより子持ちの浮気は言語道断!だってさ」
僕は目の前に居るこの女に調子を合わせた、女の他にも関係を保っている女たちが居たがここでは便宜上、彼女のみを女と呼ぼう、僕は女を促した…で?ああ、僕が悪いことしてるってこと?僕と会うのを咎められてるの?
「あいつ、お母さん出て行っちゃったからさ」
女は繰り返した、女の話では彼女の友人の母親は、他の男と駆け落ちしたそうだ、当時4歳だったその友人を残して。
だから彼女の友人は子持ちの人間は浮気すべきではない、子持ちの人間の浮気に加担すべきでもない、不幸を生むだけだと口酸っぱく言っているという、なるほど、と僕は頷いた、そういう仕草をした。

 

「子供が可哀相だって言うの、あいつ、だけどさ…なんか妙なのよ、私はあなたに会わなければ神無月くんの可愛さを知ることも無かった、世の中の子供はみんなただの普通の…赤の他人でしかなかったの、子供がこんなに可愛いなんて知らなかったの…これって悪いことかしら?」
要するに僕と関係したことで友人との関係が以前のようには保てなくなっているらしい、僕は女を抱き寄せた、そういう動作をした、この類いの動作をすれば女の気が鎮まると思った。

 

「私が神無月くんを愛おしいと思うのはね、あなたと寝たからよ」

 

女は身じろぎもせず窓の外を見つめていた、僕がどのような動作をしようがあまり関係ないらしい。
「私はあなたと寝なければ…こんなに楽しくはなかったわ、我慢し続けるのなんて、生き物のすることではないし、子供の可愛さを知れたのはやっぱりあなたと寝たからよ、私ね、イスラム圏のハーレムってあるじゃない?あれ、理にかなったシステムじゃないかと思う時があるの」
女は尚も一点を見つめていた、何が居るのだろうと思って僕もそちらに目をやると一羽の鳩が葉を咥えて庭に舞い降りていた、鳩が葉を咥えるなんて珍しいと僕は無意識のうちに思った。
「神無月くんのお母さんであるあなたの奥さんを、私が嫌いになれるはずないもの、嫉妬すら出来ないのよ、だって、あなたと繋がったってことは…あなたの周囲と繋がったって事でもあるのよ…人間て本当は個体の生き物なんかじゃないのよ…あなたはきっと、無意識のうちに神無月くんの代理の母親を探していたのよ、補充していたのよ、あなたの浮気ってきっとそういうものだわ」

 

僕の性に於ける独自の見解を述べる気は無かった。
少なくとも女や女たちにこの種の見解を述べる気は無かった、彼女の友人は男だが彼に理解して欲しいわけでもなかった、よって僕は無言で目の前の、鳩に目が釘付けになっている裸の女の乳房を吸った。
女は意識をこちらに向けるよりも数秒手前の段階で、僕の頭を撫で始めた、僕の頭から脊椎を伝って言いようのない心地よさがじんわりと広がった。
僕は委ねられているという安心感から、意地悪をしてみたくなった、母親を驚かせるみたいな意地悪を。

 

僕は聞いた…ねえ、君の性の持論を教えて欲しいな、君は夫が浮気していてもそれを善しとするんだろう?セックスは原則、その日限りのものなんだろう?もし、仮にだよ、君の憧れの人が君のご主人だったとしたらさ、その人が君以外の女と寝ても君は許すの?そして君ら夫婦に子供が居たとして、ご主人であるところの憧れの人の浮気を、君はどう思う?君に持論があるなら当てはめられるはずだよ。

 

女はわなないた、僕が言葉を言い終える前に既に激高していた、女の理論が破綻している事は火を見るより明らかだった。

 

「そもそも第一に!憧れの人と夫婦で居るっていう妄想は一番危険なものよ!その人以外の男は居なくったっていいって私は思ってるんだから!第二に、その人との子供ですって!この種の妄想はこの人生そのものが灰色みたいな感じになるのよ、あたしは、あたしは、あたしは…夫を好きだけれど、養父よ、彼は、素晴らしい養父なのよ…ナザレのヨセフよ…お互い寝れるわけがないんだから」
女は今し方優しく撫でていた僕の頭に八つ当たりしてきた、僕は軽く打たれながら起き上がって女にのしかかった、女を泣かせてみたかった。
「憧れの人との間に子供がいて、神無月くんみたいな子が居て…」
女は震えていた、そら泣け、と僕は念じた。
「あの人が家のソファーで別の女を抱いていたら…」
女の目が見開かれ、僕を目視しながらも遙か彼方を見つめているらしかった、家のソファーで別の女を抱く憧れの男を見つめているらしかった。
「…そうね、相手の女がどんなに私の子を好いてくれても…発作的に殺すかも知れないわ…あの人も、相手の女も、メッタ刺しにね」
女は尚も一点を見つめていた、一点を見つめるのが癖らしい、こいつならやりかねないと僕は思い、少し鳥肌が立った…と同時に何処か満足した気分になった。
「あら…でも…それでも妙な感じもする、子供を好いてくれる人が居た方が良い気もする…浮気相手とどんなセックスしたのか聞き出して同じように抱いてって頼みたい気もする…快楽が増すならそれでいい気もする、気持ち良いならなんでもアリな気もするわ」

 

君に聞いた僕が馬鹿だったよと僕は本音を漏らした、君がまともな理論を構築出来ると一瞬でも思った僕が馬鹿だったよとは辛うじて言わなかった。
いつの間にやら庭の鳩は飛び去り、日が陰ってきていた。
女は薄いレースのカーテンを閉めながら、あなたにはどんな性の持論があるのと聞いたが、僕は性に於ける独自の見解を述べる気は無かった。
少なくとも女や女たちにこの種の見解を述べる気は無かった、彼女の友人に理解して欲しいわけでもなかった。
よって僕は無言で目の前の女の、裸の乳房に顔を埋め、女が頭を撫でるのを待たず、念願の射精後の眠りに入ったのだった。