a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

【詩】蝉と一緒に

 

砂の色をした一本の糸を針に通し、鋭い針の先端を布にあて、静かに縫い進めてゆく
服はもう少しで変化を遂げ、夏を泳ぐ一枚の布になる
左手で服を、右手で糸を通して行くこの作業に左右の手が慣れてきたら、ほらね、蝉が鳴き始めた
どこかへ大量の水が押し寄せるのを見た、ということはこの辺りは干ばつかもしれない、川は砂の色をしている

 

蝉は歌う
I am calling you
君を探し続けているけれど叶わないかもしれない
雲が西へ流れていったから僕らの季節が来たんだ
蝉は歌う
I am calling you
君を探し続けているけれど叶わないかもしれない
どこかでは泥の中に埋もれたまま
声も出せずに息絶えた命が
だからこそ僕ら蝉は歌う
I am calling you

 

糸の一目一目が一日だとしたら、そうよね、過去にも未来にも触れることが出来る
糸の一目一目が一年だとしたら、そうよね、これが一週する頃には一生が終わる
糸の一目一目が一生だとしたら、そうよね、これが魂の在り方、消えてもそこに在り続ける

 

糸の一目一目が一人一人だとしたら、ああ、人間はやはり個体だけで生存は出来ない、繋がって生きている生き物
糸の一目一目が一人一人だとしたら、ああ、雲隠れするということの意味は、こちら側からは見えないどこかでやはり存在し続けている
糸の一目一目が一人一人だとしたら、ああ、だからあなたの喜びも悲しみも伝わってくるのね

 

一枚の服が仕上がって、別の一枚に取りかかるときに私を打つ雨粒に、歌って返答する
別の宇宙はあるのね、何もかも知らないまま私はたった一針の一生を終え、裏側へ行くのね
それでも私はきっと歌い続けるでしょうよ

 

蝉と一緒に

 

あなたを探し続けているけれど叶わないかもしれない
だからこそ私は歌う
I am calling you
目に見えない磁力に引っ張られながら一目一目を泳いでゆく小さな生き物
魂を進めるのは痛みが伴うのよ
針で刺すような痛みが
その分だけ喜びがあるのよ

 

砂の色をした一本の糸が歌の終わりを決めたので
小さな結び目を作ってやった
私はどこか寂しいような気持ちで針を置き
糸の束を見た

 

案外、魂はこんな形をしているのかもしれない

 

そう思ったら笑みがこぼれ
夏を泳ぐ一枚の布をそのまま身に纏った私は
蝉の歌の溢れるただ中へ
ぷかりと浮き
砂の色をした川で
しばし遊泳を楽しんだのだった