a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

《創作》月面装飾のエレベーター(R18)

 

神社のさ、境内の裏手でセックスするんだよこの時期は、と男は言った。
打ち水をされたコンクリートの地面から湯気が出ており、その上を犬が飼い主と歩いているのがガラス越しに見えた、日差しは強く黒い影が浮き出ていて今にも動き出しそうだった。
「影の方が質量を持っているみたい」
男にはこちらの独り言は聞こえなかったようだ。

 

男は言った。
汗をかきながら服を捲り上げてさ、蝉しぐれの中、女を抱きかかえて後ろから思いっきり突き上げるんだ、髪を引っ張ったり尻を叩いたりもするよ。
男は目の前のアイスコーヒーを一口飲んで昏い眼差しをこちらに向けた。
「目に影があるわ、あなたの目の中央に影が…今、思い出の中で女を犯してるのね」
男はほくそ笑んだ、思い出じゃないよ、今目の前に居る君の中に入り込む事を考えているんだ、君はどんな悲鳴をあげるんだろうね、思い切り犯したいんだ…男はそう言ってテーブルの下の足を私のふくらはぎに押し当ててきた。

 

「骨が痛むから本気の悲鳴かもしれないわ、後ろから、足を内側に閉じるってのがクるのよ、内転するのがよくないの」
骨が痛むのにどうしてセックスが好きなんだ?俺は君を抱きたいんだ、快楽に至らない痛みがあるなら…何故じっとしていない?
男の言い分はもっともらしく聞こえた。
「馬鹿ね、痛むから快楽が欲しいのよ、あなただって痛みの酷い人にはモルヒネを打ったりするでしょう?それと一緒よ、人間は一定の快楽と苦痛を保とうとする生き物なのよ…勿論、快楽にせよ苦痛にせよ…その度合いを超えたら人間ではなくなってしまうわ」
冷房が強いらしい、鳥肌が立っていた、そのせいだろうか…下腹部だけは熱を帯びて汗で湿っていた、どうやら男もそんな様子だった。
「行きましょ」

 

昼下がりの路地裏で男と一瞬手と手を触れ、互いの身体を少しだけ撫で上げた、うだるような暑さを感じたがまだ蝉は鳴いていなかった。
人目を忍びながらも男の手がこちらの薄手の服の上を堂々と行き来し、乳房に触れ、その先端を的確に摘まみ上げた、乳首への刺激と同時にクリトリスが充血するのを感じ、私は小さく呻いた。
快楽とはこういうものだった、決して貪り尽くせないもの、完結し得ないものだった。
尻全体が熱く張ってきたのを私は感じ、その事を男に告げた、男と私は街の南側に広がる無数の洞のうちの一つを選んで寝そべる事にした。

 

時間制の建物の内部は空気が淀んでいた、受付には何年も前から置かれたままといった体のキャンディが小さな籠に詰められてこちらをじっと見ていた。
「どこも一緒ね、フルーツ味」
男は首を振って言った、俺はこんな場所に慣れてない、君みたいにこんな場所の飴をむやみやたらに舐めたりしない、俺は割ときちんとした人間だからね、こんな洞窟みたいな場所には慣れていないんだ。

 

エレベーターの中に足を踏み入れた途端、どちらともなくあっと声を上げた。
黒く磨かれた床には小さな灯りが無数に点滅し、あたかも星屑を散りばめたようだった。
天井付近の階数を示す部分を見上げると、何故だか月面の写真で装飾がなされ、これから月へと上昇してゆくかのように感じられた。
「月世界に導かれているのかしら?」
非日常ってことだよ、そう言って男は私を抱きすくめた、歳の割に若い男の匂いがした。
私は舌を尖らせて男の首筋の汗を一滴だけ舐めた、男は低く呻いた。

 

「境内の裏手でセックスしてたなんて嘘でしょ?蝉の鳴く頃それをやったら蚊だらけで、そっちのエピソードの方が色濃く出ちゃうものよ、セックスが日常ならね」
男は黙って頷いた、私は男の太ももを軽く引っ掻き、乳首のあたりを優しく指で弾いた、男の吐息が顔にかかった。
「素直ね、約束通り下着のまま顔面に跨がってあげるわ、私がそうしたくなった時に」

 

外の様子はわからなかったが、この月面装飾のエレベーターの中で何か質量的なものが反転した様子だった。

 

「やっぱり影の方が質量を持っているみたいね」
男にはこちらの独り言は聞こえなかったようだ。
「今日は私の言うことを聞くのよ…身を委ねた方が快楽が強いときもあるのよ」
男は言葉では何も返答せず、息を弾ませて脇目も振らず部屋へ直進しようとしていた、私は目に見えないリードを引っ張って男をたしなめた。
「焦らないで、大丈夫、それに帰りにまたこのエレベーターに乗れば、元に戻るから」
そう言ったがやはり、男にはこちらの独り言は最早聞こえてはいないようだった。
かくして男は幸福な一匹の犬に、変化したのだった。