a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

《創作》あたしのコード

 

あたしは常にギターと一緒、歌いたいときに歌って過ごすの、でも実際にそれをするのは凄く大変。
教科書に書いてあることは意味がわからないし、将来のことなんてどうでもいいの、好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい。
そのために勉強する意味ってある?
都会へ行って好きな人を見つけるんだ、だとしたら好きな人はあたしの為に都会に居てくれるのかもね。
だってあたしが好きな人を、自分自身のために見つけたいだけだから。
その人の人生がどんなものなのか、その人があたしの事本当に好きなのか、その人とあたしは運命の相手なのか…そんなことどうでもいいの、好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい、それがあたしの願い。

 

実は今職員室に居るの、何でかって?
歌うのを馬鹿にするやつが居たから、友達と一緒に殴ったの、そいつ鼻血出して泣いて帰ってったよ。
やりすぎ?
でもさあ、休み時間って本来好きなことする時間じゃない、それを嗤われたんだからやり返すのは当然でしょ。
何かが起こったら必ず反撃しろっていう鉄則、これはギターが教えてくれた事、ギターが語りかけてくれたこと。
次の休み時間にはあたしまた歌うの、だってあたしはこれで男子をぶん殴って鼻血出させた女、誰も咎めないでしょ、世の中が弱肉強食だって教えてくれたのは確かにこの学校なの。
友達も居るしあたしを咎める奴も嗤う奴も居なくなったし、最高、学校って好き、つまんないけど。
学校には友達は居ても好きは人は居ないから、やっぱりあたしは都会に行かなきゃならない、好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい、だから行かなきゃならない。

 

家に帰ると、5人の兄ちゃんたちのうち一人二人はおかしくなってる、何がそうさせるの?
一緒にお風呂に入るといつもこう、友達に話したら皆びっくりしてたけど、うちは大家族だからお風呂を一人一人が独占してたら朝になっちゃうでしょ。
…だから嫌なんだ、お風呂入るの。
兄ちゃんたちのことは好きだけど、でもやっぱ近寄らないでほしい、いや、兄ちゃん達のことは、嫌いだけど、ううん、兄ちゃん達のことは…
男ってそういうものよってばあちゃんは言うけど、信じられない、だから下半身が重いって言いながら覆い被さってくる兄のうちの一人を、この前ギターで殴ってやったの。
その兄ちゃんのおでこが切れて血が出て、唖然としてたけど誰にも言わなかった、自然と他の兄ちゃん達もあたしに気安く触れることはしなくなった。

 

「ロミは怒ると手がつけられなくなる」それが彼等の合い言葉みたい。

 

ね、やっぱり弱肉強食、ギターは最強、ギターは弾く物だけどあたしを守るものでもあるの、だからあたしはあたしのコードを弾き続けるの。
だってあたしは好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい、兄ちゃん達のじゃなく、好きな人の。

 

一人暮らしをはじめてから半年、それまではしぶしぶ、一緒に都会に来た兄ちゃんのうちの一人と暮らしてた。
悪くなかったよ、いつもギターをそばに置いて歌ってたから、もう変なこともされなくなったしね。
それにしても好きな人を探すのって意外と大変…ここには沢山人が居て、あたしみたいな丸顔にどんぐり眼の人間もいるけど、そうでない人も沢山居る。
かっこいい人が沢山居る。
目の造り、鼻の造り、眉毛の薄さ…なんとなくぼんやりと理想はあるんだけど、探し出せない、好きな人ってどうやって作るの?
好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい、それでようやくここまで来たのに、肝心の好きな人が見つからないの、人が多すぎて窒息しそう、全部が溢れかえってる。

 

夜なのに地面が光ってる、下から光が伸びて宇宙までの信号を送ってる。
あたしの部屋、この部屋が何千何億と…都会にはあるみたい、知り合うことのない人たち。
仕事をしているとき、あたしは白衣を着てシャーレを顕微鏡で覗き込むの。
シャーレは透明なガラスで出来ていて、下から光を当てる、シャーレごと一つの街みたい。
何千何億の小さい生き物が見えてくる、厳密に言うと生き物でない場合もあるけど…その差がどれほどの事なのかあたしにはよくわからない。
彼等は自分の居るシャーレの中の全員と知り合いなのかな?
彼等は自分の居るシャーレの中で隣り合わせた相手以外、存在すら知らないのかな。
…だったら、それはちょっと悲しいような気もする、でも、それこそが生命が緩やかに暮らせているってことなのかな。

 

シャーレの中で叫んでいる一粒の命、それはあたし。
あなたはどこに居るの?
好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい、あなたはどこに居るの?
街がいつまでも存在するなんて思わないで…明日にはシャーレごと廃棄してしまう、それがあたしの仕事。

 

動物棟の奥には小さな廟があってね、そこに動物たちの魂が込められているのだって。
飼育用の動物に餌をあげながらその話を聞いたよ。
箱の中にはラットの赤ちゃんがいっぱい。
どんどん増えて行く分には問題ないの、ウサギの目は人間の目に似ているから色んな目薬を垂らして実験出来る。
詳しくは知らない、その部門にはあたしの頭じゃ配属されないから、ウサギの赤ちゃんもケージの中でわさわさ動いてる。
ネズミはもぞもぞ動いてひとつの箱に入れられている、ネズミは…ラットは箱でいいの。
ラットは箱でいいの、ラットは生き物だけど生き物未満だから…前に餌をやり忘れちゃって…一週間後に蓋をあけたの。
…ああ、あのときの事は…あたし、ギターで自分の頭を殴りたいと思ったよ。
ラットの首を小さくつまんできゅっと抓る動作を習ったけど、それはやってない、でもこの場所で誰かがやってる、毎日。

 

この場所には赤ちゃんがいっぱいいる、赤ちゃんなんてもう溢れてるの、誰かが産むまでもなく命は溢れかえってる。
それなのにあたしは好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい、おかしいかな?

 

手を合わせて祈るの、あたしの中の矛盾全てに、出会えない誰かに、箱の中の片隅から片隅への合図、シャーレの中の信号。
街の中であたしは誰かをいつも探してる、もうそろそろと思うけど。
仕事が終わって自分のアパートに帰る、セブンイレブンのお弁当か、ポッキーを食べてる。
ベランダでポッキーをつまみながら、炭酸の弾ける感覚、夕暮れ、そしてギターを弾きながら歌うの、小さく。
渋い音と、渋いタバコ、紺碧の夜空。
淡い音と、軽めのタバコ、朝焼け。
全部合致するんだね、全部合致するコードがあるんだね、音と匂いと光、他のジャンル、他のシャーレ、別の宇宙でも同じ音源のものがあるんだね。
まだ見ぬ好きな人、あなたの宇宙に私はいますか…あなたの宇宙にあたしの信号が届きますか。

 

好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい、もうずいぶん前から、メッセージを送っているのに、あたしのコードをあたしは発し続けているのに。

 

道を歩いていたら後ろから声をかけられたの、この前ライブしたときに聴きに来てくれた人。
その人も音楽やってるって言うけどデタラメ、あんなに下手なドラム見たことない。
その人には年上の彼女がいる、音楽仲間みんな知ってるけど、あたしにそんなの関係ないの。
だって…あたしにとって、その人なんだから。
その人の部屋に行ったの、部屋はその人の匂いとタバコの匂いが染みついてた、山の匂い、あたしの知らない匂い。
この人だって思ったの、身体を開いたときもギターは大人しくしてた。
なんだか身体がふわふわして、帰り道、駅から逸れた川岸で少し休んだ。
夜空を映した小川はキラキラと何かの信号を発してた。
好きな人を見つけた、この人の赤ちゃんをあたし、産みたい、夜空から何かが瞬いた。

 

あ!星が落ちてきた!

 

そんなイメージが視界に広がると同時にあたしが倒れて気を失ったのは、好きな人を見つけたその日、好きな人を見つけてその日のうちに身体を開いてから3ヶ月後。
あ!と思ったから名前は「あ」でいいやって思ったけど、それじゃなんだから「あ」のあとに何かしらつけてあげようっと。
ベランダでポッキー食べていると落ち着くんだよね、タバコも気持ち良い、こんなに気持ちいいんだからやめる必要なないでしょ、あの人と肌を合わせるのと同じ。
このタバコに合うギターのコードは何だろう、そうやって夕暮れの心地よい風にあたって指を動かしていると世界が…とっても満ち足りたものみたいに感じるの。

 

ひとつも欠けていないの。
何一つ欠けていないの。
箱の中のラットもぎゅうぎゅう詰め、ケージの中のウサギの赤ちゃんもぎゅうぎゅう詰め、シャーレの中の微生物たちもすし詰め状態、この街の人間も一人ひと升で溢れんばかり。
そしておなかの中にも「あ!」が居る、常に何か発生している、欠けるなんてことはあり得ない。

 

欠けるってなんだろう。
ラットの首をきゅってすること?
でもラットは野放図に増えて行くでしょ、ラットの赤ちゃんを詰めておく箱はいつもぎゅうぎゅう。
口には甘いポッキーの食感、苦いタバコの癖になる香り…好きな人の香り。
ギターの音、つま弾くときに空気が震えていくつかの星か見えるの。
ね、世の中は発生してゆくことだらけなの、確かに見えなくなるものは多々ある、でもそれは見えなくなるだけであって、別の世界に発生するだけなんじゃないのかな。
好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを産みたい、その赤ちゃんはもしかしたら別の宇宙では…見えなくなったのかも知れない、雲に隠れたのかもしれない。
そうやって移動し続けているのかな、だとしたらほらね、何も矛盾しない、動物棟もその奥にある廟も全部発生のための装置だよ。

 

いつかあたしも移動するのかな?

いつかあたしも欠けるのかな?

いつかあたしも死ぬのかな?


「あ」がどこか彼方からあたしのおなかの中に移動してきたように、あたしもいつか死んで見知らぬ場所に出現するのかな。
あ、タバコ切れちゃった、なくなったタバコは…吸ったからなくなったんだよね、大気の中に煙として存在してる。
なくなったタバコたちのためにこのコードで曲を…ああ、どっかに焚き火でもないかな、この街じゃ無いよねえ。
焚き火のそばで色んな種類のタバコを試しながら、そのタバコに合うコードで曲を弾きたいな。


あ、ポッキーもないじゃん、食料、あたしと「あ」の食料。
買い足さなきゃ。
死ぬなんて考えつかないよ、蛇革の靴も買ったばっかりだし、タバコは美味しいし、ポッキーも好きだし、ギターもそばにある。
好きな人を見つけてその人の赤ちゃんを今、宿している、死ぬなんて考えつかないよ、もっとずっと遠い…「あ」が来たような果てしない彼方の時空間の話だよ、死なんて。
さてと、コンビニ行こ!