a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

《創作》影は海の色をしている

 

真夜中、影と話をした、影は身体の奥深くに潜んでおり日中は出てこない。
稀に、日中でも影として立ち現れ、それを見た人を酷く混乱させるらしい。
影は言う、「人間はすべからく近親殺しの末裔だ」、影は叫び声を好む。
影は海の色をしている。

 

死んだ人間が子を成すことは無い、嬰児殺しが、親殺しが、血縁殺しがどれほど行われてきたのかどうして隠そうとするのだと影は言う。
骨の髄に組み込まれているのだよ、同族殺しの血が、それが夜に叫び声を上げさせるのだよ、影はそう笑った。

 

昼間のお前は海面を浮かぶ小さな帆船だよ、それがお前が認識出来る範囲内のお前なんだ、本当のお前は海面を含む海そのものだ。
海の中で何が行われているのかわかるかと影は言う。
海水全てに意識があるのだよ、海水全てに記憶があるのだよ、海水全てにお前は、飲み込まれようとしているのだよ、影の声は身体を伝って酷く震えながら発せられた。

 

影自体が身体に組み込まれていた、夢は鮮明で、親殺しをしている最中だった。
見知らぬ顔、当たり前だ、自分すら自分ではなかった、それでも親は笑っていた、蝋燭の明かりが彼女の顔を照らした、その顔を石で撲った、顔が凹んだ。
親の顔に涙の筋が流れた、真っ赤な鼻血が流れた、しかし笑っていた、汗を流しながら怒りに飲まれた、はじめのうち普通に会話していたのだ、笑われたのが怒りの引き金だった。

 

夢の中でいつも殺しをやる、何回目か何十回目か数えてもいない、これは遺伝子の記憶と影は言う。
何食わぬ顔でやるときもある、邪魔だったから、そして遺体は納戸に隠す。
納戸を開けるとぐるぐる巻きの大きな何かがのしかかってくる、それをどかす、ゴミだからと捨てに行くときもある。

 

遺体の目が隠れるように帯を巻く、その帯に目を描くのだ、そうすれば彼、彼女はこちらの思う顔をしてくれる。
笑顔の目を描く、殺されて尚笑っている、ああもう神様なんだ、君らは神様だ。
帯をほどいて驚愕する、自分自身を殺していたのだと叫ぶ。

 

その叫び声は絶叫ではない、声を大きくとか、怒りとか、そんな海面の上を漂う帆船のような意識は無い、帆船は既に海水に飲まれている。
海水そのものの渦が、喉元から上がる、断末魔である。
断末魔に影は含まれている、叫び声を発しながら、青黒い断末魔と会話する、影は海の色をしている。

 

昼間、帆船を操り雑事を済ませる、昼間、帆船を操り言葉を発する。
昼間、帆船を操り常識的に肉体を動かす、突然踊ったり叫んだり殺したりはしない、昼間、ほとんど大半を制限されて過ごす、がんじがらめの中に煌めく美しさを見いだす。

 

真夜中、影と話をする、影は身体の奥に潜んでおり日中は出てこない。
真夜中、帆船はあっけなく海に飲まれる、昼間培ってきた言語や振る舞い、思いやりといった気持ち全てを、宝物として帆船に積んでいたのに。
積み荷はゴミだから捨ててしまえと影は言う、そんなものはただのお飯事だと影は笑う。
本当のお前は海そのものだ、海の中で何が行われてきたのかわかるかと影は言う。

 

海の中で今尚何が行われているのかわかるかと影は言う。

 

口から吐き出された影と真夜中会話する、あまりに拠り所がなく、涙が頬を伝った、しかし殺された人の記憶は遺伝子には存在し得ない。
よってそれは、殺しを行った人間の目で見た情報の再現だろうという直感が身体を貫く。
では人間がすべからく近親殺しの末裔であるなら、何故帆船を組み立て、出航させ、海面に立ち現れさせるのか。
いとも簡単に沈没してしまうのにどうして、今尚、営みとして人間は帆船を選ぶのかと影に問うたが影は既に、朝焼けに消えてしまっていた。

 

影は身体の奥に潜んでおり日中は出てこない、影は海の中に在る。
だから海は凪いで、日中人間は帆船を操っている。

 

稀に、日中でも影として立ち現れ、それを見た人の帆船を転覆させるらしい。
日中、帆船を失った人を「気の違った人」と人間は言う、同族に対しそのように冷淡に振る舞う。
影は言う、「当たり前だ、人間はすべからく近親殺しの末裔なのだから」、影は叫び声を好む。
真夜中、多分また影と会話する、叫び声で交わり合う、帆船は木っ端みじんになり、自ら海となる。

 

影は海の色をしている。