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腱鞘炎

人間は楽器だ

右手の弦は弧を描いて、送電線を見つめたままぴんと張りつめている

これ以上力をかけたら、霜柱と一緒に、午後には空気に弾けてしまう

手の甲に筋肉は無い、ただ弦が張られているだけなのだ、指先から音を奏でるため、それだけが手の役割だと、身体は唄っている

遠くの、機械仕掛けの弦を、右手はつま弾いてみせた

あの弦にも電流が、右手自身の弦にも微弱な電流が

「私は平気」と右手は言った、「この楽器の欠点は、弦を張り替えられないことね」と笑った

右手は送電線を見つめたまま、自らの弦を少し緩めた、とたんに、肘から薬指までを、真っ黄色の電流が駆け抜けてゆく

「痛みは飛んでいくわ」と右手は嘯いた

「あの弦に今の電流が、送電されたはずだから、それは電気としてまた、私たちに巡ってくるでしょう?だから大丈夫、何も心配いらないわ」

右手と私は決意し、弦を張る、あと一瞬で空気に弾けてしまう、その寸前まで、弧を描いて音を奏でている