a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

首都高速の高架下【詩】

首都高速の高架下、あのコンクリート色の場所は、大きな川辺のすぐそばにある。

 

高架下と交差するように架けられた橋の片隅。
虹の大橋と看板がつけられたあの橋の、そのすぐそば、真上には首都高の裏側がむき出しになっている風の吹きすさぶ場所、そこに木は植えられていた。

 

私がその場所へ、敷き詰められた砂砂利の道を、足の裏をジャクジャクと軋ませながら歩いて行くと木は、微笑んでそれに応えた。

 

私の部屋から、大きな川辺が見えた、首都高も見えた。
川面には、規則正しい不自然な窓辺が、歪んで存在していた、川面では私の部屋もぐにゃりと曲がっていた、木はそれを見ていた。
木は川面を見ていて、私も川面を窓辺から見ていたから私たちは知り合いだった、私たちが知り合いだということを知っている人は誰も居なかった。

 

首都高を飛ばしていたときにね、と私は言う。
死のうと思ったの、と私は言う。
私は助手席に居て、これからどうなるのかなって思ったら笑ってたの、スピードをどんどんあげた車の中で、あの空間だけが世界から切り取られているように感じたの、特に夜の首都高は、街灯の間隔やその明かりの色が、車のスピードに調子を合わせて、その時にしか聴けない音楽を奏でているの、それにさらに色が加わって、私もう、自分が車に乗っているのでは無くて、自分は自分という箱の中にしか存在出来ていない、ということの苦しさに、参ってしまった、だって、と私は一気に言う。


…だって、私はまだ、あなたがここに居るって知らなかったものだから、あなたが、川面を見てるってこと、あなたが、窓辺から身を乗り出して見えない道を探している私を見ているって事を、私は知りもしなかったから、と私は言う。

 

木は頷いた、木が、首都高の事も含めて、私の話すことを理解しているということも、川面にこそ虚偽ではなく本質が映り込んでしまうということを、木が知っているのを私は理解していた。
私と木はそうやって語り合った、そこは本来、海の一部で、砂で出来た島だった、そんな場所に木は来ることができない、だが人がゴミやら土やらコンクリートやら、砂砂利やら首都高やらを持ち込んで、ブロックを組み立て、木もその人口の入り江を構成する一部となった。

 

木が首都高を知っているのは木がそこを通って運び込まれたからだった、木もまた、あの手の道に据えられた灯りのもたらす催眠効果を知っていた、トントントトントントントトントン、わかるような、でも理解出来ないようなリズムで灯りがこちらの皮膜を叩いてくるのを、木も体験していた、夜に人間の手が加わると、それは真横からのオレンジ色の音となって木や人を独特な感覚に陥らせる。

 

コンクリートの地面には、夜の緑の光は無いよと木は言った、私は聞き返した、なに?夜の緑の光って?

木は言った、夜には土の地面から湧き出る緑の光がある、それが昼の間でも木が、地面にしっかりと根を張るための、重くなるための、地面に属するための光なんだよ、だから水鳥以外の鳥は、木の高い場所で休むんだ、そうしないと昼間飛べなくなるからね…私は木の言うことを素直に受け止めた、木の話すことなら素直に受け止めることが出来た、私は木と話していることは誰にも言わなかった。

 

引っ越すときに、虹の大橋へ私は、部屋から出て数百メートルばかり歩いていって、木に、改まった別れの挨拶をした、木を、哀れまないようにと私は思った、木は黙っていた、私が土のある地面へと移動することを、寂しげな笑顔で見送った、砂砂利の、風の吹きすさぶ場所で木は、土を思って眠ったり目覚めたりしている。

 

今度さ、と木はそのとき言った。
土のある土地へ行ったら、夜に外を見てごらんよ、と木は言った。
土のある土地の夜は、緑色だよ、コンクリートの道まで緑に染まるほどの、地面に属するための力が湧き出る場所だと思うから、次の日の昼間は足がうまく運べなくなるかも知れないけれど、あの緑色を見てごらんよ、と木は言った。
あの緑色にね、手を伸ばされかけたんだ、もうこれ以上どこへも行かなくていいように、枯れてしまおうって持ちかけられたんだ、緑の光は、夜の光は、呻き声に少しだけ似ているんだ、ずーっと止まない低い低い深緑色の声なんだ、地下から伸びてくる深緑色の太い一本の、絡まった古い古い毛糸みたいなものが、夜中、触手みたいに他者を探しているんだ…それもいいかなって思ったよ…でも青い朝が来たときにはまだ、枯れてなかった、だからここへ来た、と木は一気に言った。

 

木はしばらくの間風に吹かれつつ、空が、数多の自動車や建物の配管から出る灰色の音で反響するのを聞き入っていた、そして静かに笑った。

 

手を振ったら、人は怪訝そうにしていた、木はまだ微笑んでいた、私がここへは戻ってこないことを、それが幸せだということを木も知っている、木よりもずっと木の性質を帯びている私を、木は許してくれた。

 

首都高速の高架下、コンクリート色の、大きな川辺のすぐそばにあの木は植えられていた、高架下と交差するように架けられた橋の片隅に、人よりも人らしい、おしゃべりな一本の木が居ることを、緑色の夜の光を見た私は、知っているのだ。