a.o独白ブログ

詩や創作文章を公開しています、時に汚濁あり時に18禁あり、綺麗な場所ではございません、あしからず。

芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている【詩】

芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている、そんな朝はただひたすらに青く、湖に街ごと沈んでしまったかのようだ。
この青い空気を羽に内包しているらしい白鷺が、音も無く飛翔する、そのまままっすぐ、あの橋の下まで。

 

あの橋の下で私は一晩中過ごした、寝袋に入って、ひたすらに朝を待った。
わかっていたのだ、投函された手紙はもう誰にも読まれない、それを取り戻すために私は歩いてきた、今手に持っているこの手紙が、最後の文字。

 

文字は踊っていた、どこか力の無いその文字たちは、夜が好きでは無いらしい、手紙から逃れようと踊りながら、私に気付かれないようにもがいていた。
私は逃げない、あの人から逃げない、そう繰り返したが寝袋は棺桶のようだった、その棺桶を照らす光に、私は気付いた。

 

夜にも光があると、知っている人はどれくらい居るのだろうか、昼間降り注ぐ光とは別種の、地面から湧き出る緑色の光。
緑色の世界から鳥は逃れている、緑色の光は昼の光の中飛ぶのを妨げるのだ、だから鳥たちは木の上を宿とする、私は寝袋から出て、自分が、発光する地面からの光に染められるのを、朝には膝下まで真緑色になるであろうことについて、祈りながら耐えた。

 

祈りは両目から水となって地面へと還っていった、生まれることが間違いなら、地面へ戻る方が行いとしてふさわしいと、あの人は言っていた、あの人の匂い。
匂いは手紙から染み出ていた、それは夜をはね返す真昼の室内を思わせた、手紙だけは真昼の時空を維持していた、文字がなぜ逃げたがるのかその時にわかった。

 

私も文字も空間からにょきにょきと生えている一粒の水に過ぎない、空間を超えることは叶わないのだ、私はもうあの人に会えないのだと、その時に知った。
すべての水がほんとうに溶けきるときに、光が、青でもあり緑でもあり、真昼の卵色の光でもあるとき…そのような時が来ない限り私はあの人には会えない。

 

電気だって光だ、そう思った私は地面へと還るため、高圧電流と書かれた看板の下まで、あの橋を過ぎて次の柵の所まで歩いた、手紙も、文字達も地面に還したかった。
そこは昼間でも鳥の一羽も来ない場所、せっかく実った柿の木もうち捨てられるままに在る場所、鳥たちの避ける場所、人間の居場所だった。

 

人の居場所に私は橋を越えて帰ってきた、私が柵をよじ登ろうとすると地面は赤茶色に滲んだ、ふと気付いた、霜は朝日と共に地面へと訪れるらしい。
真っ赤な巨大な目が、僅かばかりの涙をながしてゆくらしい、それで銀色の霜が地面へと着地する、私の祈りが地面へと還ってゆくように、しかし人間の土地へは…人間は横たわることしか出来ない、電気を帯びて気を失った私は地面へと還れずに目を覚ました。

 

仕方なく私は来た道を引き返した、この橋の下まで私は、膝下まで緑色になった状態で力無く歩いてきた、夜に長く居すぎたのだ、人は自分の居る時間の色に染まる、あの人が卵色だというのも、あの人が真昼にこそ存在しているからだ。
幾日か眠れば、また私も元に戻る、夕方の色に、私は戻るのだ、そして窓辺に立って思い起こすだろう。

 

芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている様子を。

そんな朝はただひたすらに青く、空気を吸うごとに自分もまた青く変化し、湖に街ごと沈んでしまった世界を構成する一部に成ることを。
この青い空気を自らの羽に内包しているらしい白鷺が、音も無く飛翔する、そのまままっすぐ、あの橋の下までゆくことを、私はもう知っているのだから。