大熊あれいブログ

絵画やイラスト、詩や独白文章を公開しています。不定期です。

【詩】腕時計は海に落ちたの

 

腕時計は海に落ちたの、シーツのさざ波、紺碧の水平線、ベッドの真横には夕焼けみたいなオレンジの灯り

 

掃除用具は床に慎ましく座している、私は起立状態、いつもならば小走りしながら数時間が過ぎる真昼間のホテル

 

さっきからもう10分、実は一部屋の丸半分が片付いてしまう膨大な時間、私は微動だにせず水平線を見ている、整えられた紺色のベッドが誰かの手でかき回される

 

やめて、とは思わない、海は荒れるものだから

つらい、とは思わない、私は確かに楽をしてるの、仕事は踊りだから、私は数時間踊ってお金をもらってるの

おかしい、とは思うの、だって踊って過ごすことそものもが…罪のような雰囲気

 

マスクを外して、頭を覆うヘアバンドも静かに取り去って素顔を見せたら、制服のポケットも見られるのね、そのうち私の身体の中まで誰かが指をつっこむのかしら

 

晴天、窓を開け放って向こう側に広がる丘陵のその先は見えない、日差しが湿った部屋を乾かしてゆく、私の汗は大気に舞い上がってどこまでゆけるの?

 

腕時計はきっと海に落ちたの、紺碧の水面に溶けてしまったのよ、あなたにとって東京ってきっとそういうところでしょう

 

あなたの時計を欲しがる人はここには居ないの、だってここは海、海底にはたくさんの腕時計が主人の呼ぶ声を待っている、そういう場所

 

浜辺が煌めいているのもそのせい、ここの砂はみんな、旅人の忘れていった腕時計の塵なのよ

 

ナイロンの襟がかゆいの、もう行っても良い?

裸になる筋合いはないのよ、私以外に踊る人もいないの

 

それじゃあ最後に心を研ぎ澄ませて、耳をそばだてていてね、あなたに、着衣のまま愛を込めてもう一度言うけど

 

腕時計は海に落ちてしまったのよ、ここであってここでない、紺碧の海に