大熊あれいブログ

文章ブログです、雑記帳のような感覚で主観的、感覚的に詩やエッセイのような独白文章を書いています。不定期です。

【詩】日々の詩

黒い紙(詩)

まだ寝床に居る素裸の時分黒い大きな紙が私の視界ギリギリに迫ったそれは揺れていて意外なほど好意的であった 黒い紙は私に服として巻き付くのかと思いきや誰かと私との間に立ち両者の意志を仲立ちしているかのようだ 起床した私は自分が今しがた恋人と別れ…

春の霊峰(詩)

あの団地に居た小さい頃ひどく怒られたその後によく震えながらベランダに出て私は私にしか見えない山を夕日を浴び膝を抱え詣でた 春の霊峰はタライに水を張ったその中に浸してある色とりどりの水晶にのみ内在する水晶をひとつコンクリートに水が滴り灰色がさ…

シャーレ(詩)

若き日の母は白衣を着シャーレという小宇宙に生物の種を撒いて発芽させる仕事をしていた 蛍光灯の白奥の廊下をさらに突き進むと動物実験棟に至る ふとした折何と断定できぬ叫び声がする そのような禍々しい場所のすぐそばで母は白衣という法衣にその身体を包…

鶴の児(詩)

鶴という鳥が実在するのかどうかを知るそれよりも前から 私はその鳥の模様を指でなぞっていた 母が仏壇に供えていた真鍮の水入れに 刻まれた鶴を 私は薄暗い畳の部屋で一人きり 愛でていた あなたは 今悠々と冬空を飛んでいるのかしら それともあなたは 鶴の…

腱鞘炎

人間は楽器だ 右手の弦は弧を描いて、送電線を見つめたままぴんと張りつめている これ以上力をかけたら、霜柱と一緒に、午後には空気に弾けてしまう 手の甲に筋肉は無い、ただ弦が張られているだけなのだ、指先から音を奏でるため、それだけが手の役割だと、…

わかったって言ってくれ

伝言の伝言の伝言は、微笑みながら網を張って、年末の獲物を待っていたどうにも足が動かないと思ったら、私は身体をすっかり絡め取られていたらしい 君の笑顔のツケを私は払っている私の当たりの強さと君の物腰の落差に驚いてしまった分を加算して相手は支払…

方眼用紙【宗教】

人を殺した事がある、私は11歳だった、表面上は机に向かい、白地に青の線が引かれた美しい方眼用紙を、汚す要領で文字を記していた、人を殺す物語をその時の私は書いていた。 方眼用紙上での私は東欧に居た、寒村から始まったこの血筋は未だ寒村に留まり続…

首都高速の高架下【詩】

首都高速の高架下、あのコンクリート色の場所は、大きな川辺のすぐそばにある。 高架下と交差するように架けられた橋の片隅。虹の大橋と看板がつけられたあの橋の、そのすぐそば、真上には首都高の裏側がむき出しになっている風の吹きすさぶ場所、そこに木は…

寒いので夕日を食べる【詩】

寒いので夕日を食べる、もうすぐ冬至なのだ、身体には日の光を蓄えなきゃならない、地面に属する構成のものは、太陽が少なくなると脆くなってしまう、それは人間とて同じだ。 橙色のもので代用できる、ぎっしり詰まった夏の身体が恋しい、柔らかく湧き出る春…

芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている【詩】

芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている、そんな朝はただひたすらに青く、湖に街ごと沈んでしまったかのようだ。この青い空気を羽に内包しているらしい白鷺が、音も無く飛翔する、そのまままっすぐ、あの橋の下まで。 あの橋の下で私は一晩中過ごし…

ポエム【詩】

空気の澄んだ午後に、バスに乗っていて窓越しに外を見たら、落ち葉の舞い散るただ中に、妙に好みの男が立っていたので思わず私は凝視した。 意外なほど温度を感じる冬の日差しのせいか、マフラーを取りさって顔を上げた彼が、なんとこちらを見つめ返してきた…

人形【詩】

小さな箱を用意してそれを周囲の世界に見立てる、そして自分を人形に置き換えた、部屋は明かりが灯っているが四隅には闇が息を潜めている。 私はたまらなくなって人形の四肢を、一本一本ちぎっていった、大きなハサミで右腕、左腕、左足、そして右足、下腹部…

月面球【詩】

ラブホテルのエレベーターの中 文字盤のあたりに月面の壁紙 どうやら 辿り着けない場所へ行くらしいねと笑い合う 誰がこんなことを あなたの 髪の匂いがわかるほどそばへ 月はその実トンネルの向こう側の光なのだよ あれは球体なのではなくて 空洞なのだよ …

カラス【詩】

ゴンゴンと窓を叩く音がする、朝、今まさに出かけるというその瞬間に私を呼び止める声がする、どこからだ?いつもと音の方角が異なる気がする、そう、いつも来るのだ、どこか紫がかった黒い翼、キョロキョロとあたりを覗うせわしない動作、ああ、あの子だと…

【詩】腕時計は海に落ちたの

腕時計は海に落ちたの、シーツのさざ波、紺碧の水平線、ベッドの真横には夕焼けみたいなオレンジの灯り 掃除用具は床に慎ましく座している、私は起立状態、いつもならば小走りしながら数時間が過ぎる真昼間のホテル さっきからもう10分、実は一部屋の丸半分…

【詩】あなたとこうして互いの毛先を

暗い室内、アルコールの匂い、向かい合って座るあなたと私。 ほんの少しずつ距離を縮めている、これは物理的、心理的な話。 髪の毛の先、というのは最早生きているとは言い難い部分で、局所的には死んでいる状態である。 それなのにどうして、あなたとこうし…

【詩】右手に積もる黄色いスポンジ

屋根を打つ雨音、雨音、雨音、土手を越え田畑まで避難してきた鴨の、どこか機械的な鳴き声。 私は枕をちぎっている、明日は雨の中歩くのだ、台風の中歩くのは、歩いてさえしまえば気持ちよいのではないか。 右手に積もる黄色いスポンジ、低反発のスポンジ製…

【詩】極彩色のガラスの傘

「あなた方の間では、聖徒にふさわしく、不品行も、どんな汚れも、またむさぼりも、口にすることさえいけません。また、みだらなことや、愚かな話や、下品な冗談を避けなさい。そのようなことは良くないことです。むしろ、感謝しなさい。」 私を見ながら、牧師…

【詩】路傍の白百合

朝の湿った空気の中、重い膝をひきずるように歩いていると道端に母子の集団が見えます。幼稚園の送迎バスに小さい子供たちが乗り込んでゆき、私と同年代の母親たちが数人手を振っています。 私は今膝を痛めていますので、そのようなときというのは心まで普段…

【詩】わだつみの神

窓を開けて電気をつける、汚れたシーツやタオルをひとまとめにする、ゴミを部屋から出す、ユニットバスを洗う、それだけで昨夜から続く人の気配はだいぶ消えます。私の去年から行っていた仕事は清掃業、ホテルのベッドメイクと呼ばれるものです。私が何故こ…